蜜月まで何マイル?

    “何でだろ?”
 


いくら自ら選んだ道だと言っても、
しかもしかも人様から後ろ指さされてもしょうがない
“海賊”なんてな肩書だと言っても、
ここまでの規模と頻度で 波乱とばかり縁深い一味も珍しいのではなかろうか。
発足してまだまだ日も浅いうちから、早くも世界級のお歴々に注目されるわ、
その煽りでだろうか、
途轍もないレベルの不運や艱難が続々と向こうからやって来るわ。
最初の1年だけで どれほどのスキルを積めたか知れないくらいの
壮絶なてんやわんやに翻弄され続けたし。
さすがに ここから先は途轍もない化け物しか進めないとされる
グランドライン後半の“新世界”を前にしたおりは、
完膚無きまでと叩き潰されかかったものの。
それでもほんの2年で復活、
またもやその勇姿を披露しだしておいでの彼らを指して。

 いやいや、元からそういう才持つ顔触れなのだ、
 このっくらいでないと釣り合いはしないのサ、と

大きな騒動を巻き起こすたび、世間様がそんな言って持て囃す中、

 いい加減にしてほしいと、
 こそり思うクルーも いないではないらしいとか……




     ◇◇



今現在の彼らの基地船は、
世界に名だたるW7でも名の知れた船大工が
頑丈強靭さで知られる“聖樹アダム”で作った、
秘密がいっぱいお楽しみがいっぱいな、
ユーモラスな舳先飾りが特徴のサウザンドサニー号。
ヒマワリ風にデフォルメされた百獣の王が
ともすりゃ無表情に近いアルカイックスマイルを浮かべているその場所へ、
毎度のごとく、胡座をかいて前方を眺めていたルフィだったが、

 「う〜ん?」

何が不満か、何に合点がいかぬのか、
大きなドングリ目を真ん丸に見張り、
表情豊かな口元をやや歪めて。
一丁前に腕組みした肩の上にて、
トレードマークである麦ワラ帽子が乗っかった頭を
右に左に順番こに傾げていたりする。

 「なんだどうした」
 「何か見えるのかな」
 「夢見が悪かったとか」
 「腹でも痛いのかな」
 「あいつの腹が、
  食べたもんに負けたことなんて一度でもあったか」
 「それを議論する前に、
  俺とチョッパーに謝らんか貴様っ」 …と。

相変わらずはクルーたちも同じで、
プライベートへは原則“不可侵”としつつも、

『放っておくと
 どんなやっかいへ勝手に首突っ込むか判らぬ
 困りもんのキャプテンだから』

という“建前”の下、
一体どうしたのだろうかとばかり、
気がついた者から順に甲板へ集まってしまっていたりする。
思ったことはすぐ口にしてしまうルフィが、
ああも怪訝そうに…見るからに不可解な態度で、
何やら疑問を持て余しているなんて。

 「なんか覚えがあるぞ、ああいうの。」
 「そだな。」

確か、その時は
直前までいた島での騒動の間、離れ離れだったものだから、
剣豪という相棒から得る、安心感というか安堵というか
お気に入りのクマさんからの充足感みたいなのが(うぉい
足りないせいだという答えが出たのではなかったかと。
さして間もない先日のこと、さすがに皆して思い出すのも素早かったものの、

 「でも、剣士さんなら其処にいるのにねぇ。」
 「うん。」
 「そうなんだよな。」

ロビンが視線で差したのは、舳先飾りの背面真下。
船端から立ち上がっている栫(かこい)を背凭れにし、
毎度お馴染み、
当海賊団の斬り込み隊長でもある緑頭の剣豪さんが、
くうすうと安らかにお昼寝をしておいで。
ひょいと肩越しに振り返ればすぐにも眸に入る位置取りだし、
さっきまで…彼が寝付くのを妨害するかのように、
なあなあとちょっかいかけていたのを、

 「ええ、とっても仲のおよろしいことで♪」

バイオリンの調律をしていたブルックが見ていたというし。
だとすれば、それも一応は充足しているはずではなかろか。

 「ええい、面倒だな。」

大人として、人の色々な事情を飲めたり読めたりする部分とは、
格納されてるところが異なる感性なのか。
結構 気が短いというか、
何でもおいらへ話してみねぇとする豪気なフランキーが、
マジックハンドよろしく、メカニックな腕の先、
手のひらのバズーカ発射孔をがしゃりと開けたため、

 「ひぃええっ。」
 「早まるなっ!フランキー!」
 「いくらルフィでも それはっ。」

あたふた慌てる皆を尻目に
問答無用でバスンと打ち出されたのは…ネットランチャーで。

 「わぁ凄げぇな、フランキーっ。新ネタか?これvv」

捕縛された身、
あらよっと軽々引きずり降ろされたのに
わくわくしている船長も船長ならば、

 「zzzzzzzzz…。」

他のクルー以上に大事な船長だろに、
こうまでの間近でこんな仕打ちに遭っていても
ピクリとも動かず寝続ける戦闘隊長も戦闘隊長で。


  「…まあ、それはいいとして。」 × @


相手の大きさに合わせ、
大物へはぐんぐん伸びるし、
小さい相手ならギュウと拘束するよという特殊ネットから、
運動会の障害物走よろしく もぞもぞと這い出て来た無邪気な船長さんへ。
一体何をまた、慣れない煩悶なんてしてたんだと、
約1名を除くクルーの全員で訊いたれば、

 「うん。それがな?」

やや困ったぞというお顔の船長さんが言うことにゃ。

 俺ってさ、一番好きなのは冒険で、
 チョッパーみたいなモコモコが好きで
 フランキーが作るメカも好きで、
 ウソップと競争して作ったユキダルさんも好きで、
 サンジのおやつの甘いものも好きで、ご飯なら肉が大好きで。

 「けどな?」

 ゾロときたら カチカチだし(筋肉が)、
 ぶきっちょでメカのロマンも判んねぇし、
 ユキダルさんどころか暑苦しいし、
 酒飲みだわだし、

 「肉肉なとこしか かぶってないのに、
  こんな好きってのは、
  俺って何かおかしいのかなぁって。」


  …………………………………………はい?


  相変わらずな話ですが、
  突っ込みどころ満載です、船長。(笑)


ブルックが空いた口が塞がらぬ状態のご面相となり、
フランキーが“がっはっはっ、おんもしれぇ奴だ”と高笑いし、
ある意味“じゃあそういうことで”と大人陣営が流す傍ら、

 「惚気か、無自覚な惚気なのか?」
 「突っ込んでほしい、訊いてほしいってやつか?」
 「知るか、そんなもんっ

若者陣営がうっすらと困惑したり怒ったりしておいでの
更に傍らからは、

 「やっと気がついたのね、ルフィ。」

ナミがやれやれと肩をすくめて見せる。

 「いぃい? あんたってば強い奴が片っ端から好きでしょう。」
 「? おうっ。」
 「グランドラインにはその強い奴がわんさかいて、
  だんだんと目が肥えて来たもんだから。
  今やっと“あれ?”って、
  自分のお眼鏡に適ってないこいつを
  何でいつまでも一番の座に据えてんのかなっていう
  簡単な“不条理”に気がついたって訳よ。」

 「?? なるほど?」
 「………成程、じゃねぇだろが

あら、狸寝入り? しかも盗み聞きなんて趣味悪い〜と、
ちいとも悪びれずの、ついでに恐れもせずに、
歌うような言いようでからからと笑った航海士さんへ、

 「とんでもねぇこと言ってんじゃねぇわいっ!/////////」

言うが早いか、腰の得物…に手をかけるほど見失ってはなかったか、
そばにあったモップを引っつかんでの大上段から振り下ろしたゾロにしても、
そういうリアクションがあろうと判っていたナミにしても、

 「麗しのナミさんへ、何してやがるかな、こんのクソまりもっ

サンジが割って入って庇うことは、暗にであっても百も承知というから、

 「おっかないコンビネーションがあったものねぇ。」

一連の展開の一番の間近にいながら
声や素振りでさえ止めもしなかったロビンが
ころころと楽しそうに笑い、

 「???」

もしかせずとも、
ナミの言いようも実はよく理解できてはなかったろうルフィへ向けて、

 「暇だからいけないのよ、船長さん。」
 「暇?」
 「そう。」

潤みの強い目元を柔らかくたわめ、

 「何かを好きなんて、もともと理屈じゃあないもの。
  美味しいものは美味しいから好き、
  船医さんみたいにモコモコしているものは
  ギュッてすると気持ちよくて可愛いから好きなんでしょう?」

 「おうっ。」

これはよく判るのか、素直に頷くお元気なお顔こそ、
ロビンもまた嬉しいものか。
だからねと、ますますと笑みを濃ゆくして、

 「何も全部合体してなくたっていいの。
  船医さんがユキダルマみたいに冷たくてカチカチは嫌でしょう?」

 「うん。それは嫌だな。」

 「それと一緒。
  剣士さんは剣士さんだから好きなんじゃあないの?」

 「………あ、そっかぁvv」

これぞ正しく天啓と言わんばかり、
一際大きく、納得しての頷きをして見せると、

 「ゾォロォ〜〜〜〜〜〜っっ!」
 「え? うあっ!!!」

どびゅんっと宙を滑空してったルフィに飛びつかれ、
あまりの不意打ちから向かい合ってたサンジごと
若造の中では最強の剣豪が、船端へビタンと叩きつけられてるおっかなさ。

 「ふふvv
  体力と頑丈さがなけりゃあ、受け止めるのも大変な 純愛だこと。」

 “ロビン、こうなると判ってたんじゃあ…。”
 “何だかんだ言って、ロビンもナミ以上に ルフィ好きだもんな。”

何とはなく察しても、わざわざ口にはしない穏健派が、
こそこそっと頷き合ってる昼下がり。
新世界という荒波も高い修羅の海にて、
今日は珍しくも平和ならしい、サウザンドサニー号だったのでありましたvv





   〜Fine〜  2013.08.26.


  *いつぞやの
   ルフィさんの“なぜなぜな〜に”の続きみたいになりましたな。(笑)
   小人閑居するとロクなことをしない(ちょっと違うぞ)
   もとえ、小人閑居して不善をなすの典型みたいなもんで、
   日頃 物事考えない人が
   頭を使ってもろくなことにならぬという…。

   ま・そういうことでvv(こらこら)

ご感想はこちらまでvv めーるふぉーむvv

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